今、”戦略”と言う言葉は世にあふれています。
元々は、戦争における争いを有利に進めるために発達した概念体系ですが、20世紀にはその考え方がビジネスの世界に非常に役立つものとして取り入れられ欧米を中心に発展してきました。
21世紀に入り、国家や社会の変化は速度を増し、その中で活動する企業の役割、構造、活動内容はさらに複雑化する中で、経営戦略の在り方も多様化しています。
強い企業は、すべからく経営戦略を上手に使いこなし、時代に合わせた変化も加えることで環境変化や競合に勝ち残る企業経営を行っています。
一方で、経営戦略を経営にうまく活用できてない会社がとても多いことも事実です。
千里の道も一歩から。この章では、そのような企業関係者の方へ向けて、経営戦略を使いこなすきっかけとなるまとめ情報を提供します。
本章で学べる事
- 経営戦略を一言で説明できるようになる。
- 経営戦略の全体像が頭に入る。
- 経営戦略の基本的な構成要素を理解できる。
経営戦略を一言で言うと?
企業の形が千差万別なように、 経営戦略はそこに含まれる要素や役割もやはり一つとして同じものはありません。
しかし、一般的な言葉で、あえてシンプルに表現するとすれば以下のようになると考えます。
経営学視点での厳密な経営戦略の定義では、通常はこのような簡潔には戦略を言い切ることはしません。しかし、学問的な経営戦略を学ぶ時間の取ることが難しい経営者にとっては粗削りであっても端的に経営戦略のイメージを持つことは有益と考えますので、あえて明示させていただきました。
経営戦略の全体マップ
経営戦略の全体像は、こちらのような形になります。
それぞれの言葉になじみのない方へ、このマップの構成要素をそれぞれ平たく言い換えるとこのようになります。
それでは、それぞれの要素についても簡単に説明も致しますね。
①の経営理念、ビジョン、行動基準は、会社の魂とも言えるものですね。
➁の環境分析は、会社を取り巻く外の環境に関するものと、内についての状態・状況に関するものをそれぞれ調査・整理したものです。SWOT分析などの手法が一般的です。
③のアプローチは、戦略構築の方針になります。ミンツバーグなどの戦略論研究者によると、戦略構築には様々なアプローチがあり各企業の戦略はそれらの組み合わせにより成立しているとされています。
戦略構築アプローチの分類
補足として、近年の経営戦略論に登場した、ミンツバーグの5PとSAP(Strategy as Practice )に触れておきます。
ミンツバーグの5Pには、プラン、パターン、ポジション、パースペクティブ、プロイという5つのアプローチが、そしてSAPではプラクティスというアプローチが定義され欧州を中心にいま注目されています。
それぞれのアプローチを、2つの軸で整理します。戦略構築の視点がその企業の内側からか外側かの軸と、 戦略の作り方が計画的なものか創発的なものかの軸で分けてみます*。
* 戦略の構築・展開方法には以下のような形があります。
計画的戦略:事前に構築しトップダウン式に組織に提示
創発的戦略:現場で起こる事象を踏まえた修正を取り込みながら形成
この図のように、戦略の構築アプローチは様々ありますが、実際の戦略はこれらの1つないしは複数を用いることで立案されることになります。
それぞれのアプローチの説明は話が細かくなってしまうので割愛しますが、ここでは戦略の作り方は多様であることを知っていただけたらと思います。
⑤の経営管理は、PDCAによる戦略実行のマネジメントサイクルや、ローリングプランやコンティンジェンシープランによる経営計画の修正を行うことです。
⑥技術経営は、経営戦略を踏まえて、企業の競争力を生み出す技術確立へ向けた技術戦略を作り、研究開発、マーケティングなどに展開していくことです。
⑦外部連携は、業種の垣根を超えた外部組織との連携を積極化することで、市場競争の中での競争優位を確保していく活動です。
経営戦略の基本的な構成要素
最後に、経営戦略そのものに含まれる要素を説明します。経営戦略は、3つの階層に分かれており、それぞれに管理の対象とするものがあります。
企業戦略(又は、成長戦略)
会社の未来の目標像を描き、”やること”、”やらないこと”を決める。会社の資源を、”やること”にどう配分するかを決める。
事業は勿論、会社そのもの存続や成長を大きく左右する大枠についてまとめたものです。
自社は社会の中でどのような存在であるべきか、そのために未来に向かい作り上げていく事業は何であるべきかを考え、自社の活動対象とする領域(ドメイン)を設定します。
そして、そのうえでヒト・モノ・カネ・情報の企業の4つの経営資源を組織内へどう分配するのかを決定します。
対象ドメインの決定は、そこに当てはまらない領域や事業には手を出さないことを明確化することでもあり、経営資源の不用意な分散を防ぐことになります。
事業戦略(又は、競争戦略)
“やること”に含まれる事業のそれぞれについて、割り当てられた4経営資源を有効活用しながらどのように競争し勝ち抜くのかを考えます。
競合他社など自社の外の状況を分析し、無駄な競争を回避することや、如何に有意に競争を進めるかについて策略をまとめます。
機能戦略(又は、 個別戦術)
各部署に割り当てられた資源を用いた個別的な計画です。上位2つの戦略に比べて短期的なため戦術として認識されることもあります。
ここでは、経営資源を有効かつ効率的に使用することにより、販売、生産、投資、管理の4つの軸でそれぞれシナジー効果を生み出す方法をまとめ上げます。
なお、シナジーと言う言葉は相乗効果として、1+1が2よりも大きくなるようなイメージを持たれるかと思いますが、企業経営においては、収益性を向上させる「売上シナジー」と、操業費(コスト)を削減させる「コストシナジー」、資本効率向上で投資機会を減少させる「投資効率シナジー」のいずれかに貢献するか否かで判断します。
本章のまとめ
経営戦略は、
・「会社の将来の形を示し意思決定の方針となる構想」で、
・経営理念、環境分析、戦略策定アプローチ、経営管理、等と相互作用しながら形成され、
・成長戦略、競争戦略、個別戦術の3階層で構成され、
・各階層でドメイン、経営資源配分、競争優位、シナジー効果についてまとめられている。
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