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ある企業の経営者の方に訊ねられました。
「中小ワンマンのオーナー企業には戦略は必要なのか?」
あなたは、どう考えますか?
「必要に決まっている。」
「戦略が無くて企業経営が成り立つのか?」
という声もあれば、
「分からない。それ何の役に立つの?」
「そんなものはうちの会社に無いけど、問題ないから不要じゃないかな。」
「机上の空論は不要です。」
など、在籍している企業の規模や業種、また、社内での立場によって様々かと思います。実際に、私がコンサルティングしてきた企業には、実に様々な経営者がいらっしゃいました。
それでは、この問いに対するとある社長とのやり取りをご覧ください。
社長:
平治さん、ちょっと意見を聞きたいのだけどいいかな。
経営戦略ってあるじゃない。うちでは、そういった大げさなものは作っていないのだけど。ワンマンのオーナー企業だから、大きな経営判断は私が一人で行うし、後は現場に任せることでうまくいってきているんだよね。
一方で、君のような経営コンサルタントは勿論、本やメディア、最近だと社内の中堅にも「戦略が無い」なんてボヤキが出ることもあるようでね。私自身は、経営戦略と言うものを手間暇かけて作っても役に立つか懐疑的なんだよね。うちにも必要なのかな?どう思う?
平治:
そうですね。社長のおっしゃるように、御社には不要ですね。
社長:
そうだよねー。いろんな会社を見ている経営コンサルタントから見てもそうか。
私は、経験上、経営はトップの鋭い感覚と判断スピードが何よりも大切だと思っている。
以前、ある経営コンサルティング会社に経営戦略として中期経営計画を作ってもらったのだけど、難解なカタカナの羅列と大層な経営目標を、大量の仰々しい資料で提出されてね。うちには、その内容を理解できる人間はいないし。私自身、しょせん絵にかいた餅と感じてしまって。ただ、意味のない空論に時間と金を使ってしまったと後悔したこともあってね。
最近、業績が停滞気味でまた何か新しいことを考えなければと思っていたんだが、今まで通り、私が自分で考えて幹部たちに指示する形としよう。安心したよ。ありがとう。
「経営戦略」とはそもそも何を指すのか?
ここで、ちょっと失礼します。
「経営戦略」と言っても、世の中ではいろんな意味で使われているのが実情です。経営戦略のイメージが明確でない方は、リンク先の記事をご覧いただけると、この後の話がより深く理解できるようになります。
※そんなもの既に知っているという方は、ここは読み飛ばしてくださいね。
平治:
お役に立てて、嬉しく思います。
経営戦略とはカクカクシカジカ(前述のリンク記事をご参照)になりますが、頭でっかちの理屈に溺れ実利を逃すようなら本末転倒です。
戦略というものにこだわらず、のびのびと機動的に動くことで、無駄なく迅速に手を打っていける方が有利な場合もあります。
ただ、注意したいのは、これが当てはまるのは基本的に以下の条件が付く事業ということです:
- 資金投資が不要、または、小さくて済む。
- 労働人員が不要、または、常に密にコミュニケーションが取れる数人程度でよい。
- 設備や在庫への投資が不要。
- 未成熟市場のため、大手の参入意欲はない。
- PDCAの循環ループの高速試行が、コアコンピタンス形成と成功モデル作りに直結する。
社長:
え?
平治:
例えば、初期の頃のYoutubeやインスタグラム、即興パフォーマンスで、芸事などを世の中に発信・披露して、観客の反応をフィードバックに試行錯誤を行い、知名度やインフルエンサーとしての地位を、、、
社長:
おいおい、平治さん!冗談はやめてくれよ。
うちは会社だよ?君が挙げている例は一個人が裸一貫で始めるような趣味の延長のようなものじゃないか!
彼らは、失敗しても失うのは自分の時間だけ!会社っていうのは、何をやるにも金はかかるし、社員も必要、事務所や備品だって要る。適当な事をやっていたら、儲ける以前に、投入した資金の回収どころか日々のコストだって払えないんだよ!
平治:
そうですね。
仰る通りです笑。
企業経営で、ヒト・モノ・カネの投資が不要な形態はほとんどありません。これらを抑えることのできる可能性のある事業には、例えば、人材や賃貸仲介のような紹介業がありますが。収益がとれる紹介業はまず大手含めた競合がひしめく環境にあるため、無鉄砲な試行錯誤ではやはり経営していくことは大変でしょう。
すみません。本当の答えは「 御社にも当然ながら戦略が必要」、と言うことになります。
社長が経営戦略の価値に懐疑的である中で、私が問いかけに対して、ただ「戦略は必要です。」と答えるよりも、まず逆を言ってそれが間違っていることに気づいていただく方が戦略の必要性は伝わるかと思いました。
中小オーナー企業の社長が、他人の作り上げる戦略に価値を感じずらい事は理解できます。自らの作り上げてきた会社の歴史やアイデンティティ、理想や目指す姿をしっかりと汲み取り、なおかつ、社長が必ず儲かると感じる戦略を他人が作る事はほぼ不可能でしょう。
ただ、企業は日々の活動の中でヒト・モノ・カネを使いリスクを負いながら、その損失を抑え売上を伸ばし利益を最大化するために、常に最適な道を探し、選び、進み続けなければならず、そのすべてを社長一人が行うことには無理があります。
重要なことは、社長が100%納得する経営戦略を作ることではなく、限られた時間のなかでその時出せる100%の戦略を立て、実行に移し、実際に起こる問題、課題、結果のフィードバックから、戦略の修正や補強を適時行っていくこと。創発的な戦略のアプローチで、市場に合致した戦略を作り続けていくことなのです。
社長:
うーん、なるほど。
私の感覚ではなく、市場に合致した経営戦略構築を試行し続けるか、、。私の経営戦略に対する考え方が偏っているのかもしれない。役割や使い方をもう一度考え直してみよう。
平治さん、戦略との正しい向き合い方を、また別の機会に教えてもらえるかな。
平治:
勿論です。
本章のまとめ
・中小企業のオーナー経営者には、全社的な経営戦略を軽視する傾向がある。
・試行錯誤を繰り返す事が収益化の近道、戦略は絵に描いた餅で考えている。
・しかし、現実は戦略のない場当たり的企業経営には様々なリスクがある。
・正しく情報整理された経営戦略はどのような企業経営にも必要。
・経営戦略というものの神髄を理解し、正しく活用することが重要。
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